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魔術的現代詩②『悪母島の魔術師』 [魔術的現代詩]

現代詩における機能とはいったい何であろうか?
そもそも、機能などというものが存在するのであろうか?

「魔術的」か否かを問う前に、まずはこの疑問に取り掛かることから始めたい。
もしも現代詩に機能というものが存在するならば、それに見合った成果がなければ、それは機能的な面においての失敗作といえるだろう。
しかし、たとえ機能的な面での失敗作であっても、それが芸術的な面での失敗作とは限らない。
つまり、機能の根幹をなす「合理性」は、芸術的側面から見た場合には、まったくもって副次的な要素に他ならないからだ。
「魔術的」か否かについては、必ずしもそうとは言えない部分を残すが、まずは「機能的」かどうかという視点で、以下考察してみたい。

悪母島の魔術師.jpg
連詩『悪母島の魔術師』
新藤涼子・河津聖恵・三角みづ紀
(思潮社・2013年4月30日・2,000円)本書は、三人の詩人からなる連詩である。
一人が一つの章を担当し、全部で50章の詩を収録したもの。
この連詩形式は、最近、ツイッターなどでも良く見かける。
3~4人の少人数で行っているものもあれば、10人以上の多人数で行っているケースもある。
かつて、シュルレアリストが行った「優美なる死骸」を髣髴させるが、前の作品から受けるインスピレーションを頼りに次の作品に取り掛かるという点、もしくは、前の作品からインスピレーションを受けないように自分の作品に取り掛かるという点で、根本的に別ものである。
シュルレアリストが行った、客観的偶然の発見とは、そもそも目的も機能も違うのだ。



1
今朝
いつものとおり
お母さんが台所で
しんでいた(文頭)


3
悪母島
ここをそう名づけた原初の子どものように
男は海の彼方を見つめている(文頭)

10
庭では午後にはりついた些細な陽光もしずかに息をとめている
魔術師の日(文末)

27
魔術師はどきどきする
昨日まで自分が魔術師とは知らなかったから(文頭)

50
さあ、お立合いお立合い!
みんなたった一人の魔術師です
海に真っ青な陣痛を
空に赤ん坊の虹の微笑みを(文末)





この詩集の「目的」を探すのは容易なことではない。
また、その「機能」を探すのも同様である。

そもそも、詩人は何かを誰かに伝えたいがために詩を書いているのであろうか?
そうだと答える詩人も大勢いるだろうが、果たしてこの三人が、どのような目的をもって詩作に励んだかはわからない。
したがって、その成果も想像の域を越えられない。

仮に、その目的が「伝達」行為であったとするならば、容易に言葉では言い表せない胸の内を、容易に表現できない言葉によって他人に伝えようと試みる行為は、非合理そのものである。
どうしても伝えたいならば、合理的なほかの手段によるべきであろう。

また、連詩という形式を取っている以上、どうやら個人の胸の内を吐露するという理由でもなさそうだ。わざわざ、他人の言葉を借りてまでも、伝え難いものを、伝える手段として行う理由が見当たらない。
どうやら伝達という目的は的が外れているとみて問題なさそうだが、しかし、伝達される側にとっては、いわゆるこの詩集を読む読者の側からすれば、本当にこの詩集から何も伝わって来ないのだろうか?


答えは否である。
確かにここからは、人生の教訓だとか、有意義なお話だとか、有難い内容は微塵も伝わって来ないだろう。吉原幸子が飢える日はパンを食べて、飢える前の日はバラを食べるという逸話は、多少なりとも笑えたが。……
しかし、目的がどうであれ、三人の詩人のバラバラな特徴が混在し、ある意味技巧的とも見える部分や情緒に堕ちている部分、他の詩作に追随している部分、謎に満ちた期待感などなど……、全体的に不統合のままに収束している点に好感が持てる。
これは、現代詩を代表する三人の連作ならではの成果である。
もちろんこれは一読者としての感想だが、詩集全体の印象、もしくは部分において、他の感動や共感、あるいは不快、憎悪を覚える読者は無数に存在するはずだ。

なぜ詩を書くのか?
なぜ詩を読むのか?

「目的」と「機能」との乖離。
この隔たりが「現代詩」における重要な「機能」の一つと言える。




あるいは、連詩における、各人のイメージの変化を表現するということかもしれない。
他人の言葉によって、自分の感性がどう変化するのか?
これであれば、詩人自身にとっては、楽しく、苦しく、そしてとても有意義な時間であったに違いない。
評価とは別次元の行為である。
したがって、詩人には読者の存在は無意味となる。

ただ詩を愛してやまないということ。
それだけが詩を書く理由であってもおかしくはない。
この愛こそ「魔術的」な要素の根幹をなすものだ。




 

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