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『澁澤龍彦の手紙』 [書評]

もう一つ。


澁澤龍彦の手紙.jpg


『澁澤龍彦の手紙』
出口裕弘
(朝日新聞社・1997年6月1日・2,000円+税)


生真面目さの魅力――藪下明博


澁澤はノーテンキで、出口は生真面目な人間―― 例えばそう考えてみる。
旧制浦和高校時代からの知り合いで、四十年にも及ぶ二人の交友関係に限って見た場合、世間の巷説はともかく、確かにこの公式が成り立つに違いない。
また、小説家としての二人を見た場合 ―― これもまったく同様の式が成り立つだろう。
とかくライバル視される二人の関係ではあるが、そもそも両者は、性格も質も(作品の)異なる別種の人間と考えて良さそうだ。
〃近くて遠い変則の友人〃これまた、言い得て妙である。……

本書は著者宛に送られた澁澤の手紙をポツポツ紹介しながら、出会いから死別までを回想した鎮魂のエッセーである。
澁澤の未公開書簡の内容も興味深いが、寧ろ本書の真意はそこにはなく、澁澤の手紙によって投影される〃著者自身の自伝〃という印象が極めて濃厚である。
これは澁澤の名に便乗した、軽々しい読み物などでは決してないのだ。

著者が小説家を志す一方、非常勤講師の職に就く若き日の屈託した様子やら、三島由紀夫に太宰論をぶちまけて毒付いたくだり、また巴里祭と称する古き良き時代の男女の集いのエピソードなど、話題には事欠かない。
しかし何といっても本誌50号でもテーマの中心となった、澁澤の剽窃問題に対する氏の確固とした見解は無視できまい。
澁澤ファンにとっては、大方どうでも良いこの問題に(澁澤の魅力は別の次元にあるという意味だが……)、その見事な力量に脱帽しながらも、どうしても納得が行かないとする氏の意見は、少々堅いが正論である。
しかもこの氏の〃生真面目さ〃が、澁澤に比肩する最大の魅力なのだが。…


『幻想文学』51号
幻想文学企画室
(1997年11月15日・1,800円+税)
新刊展望97.5-8 より再録。



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