魔術的現代詩㉖『ライフ・ダガス伝道』 [魔術的現代詩]
クトゥルー神話以降のディストピア
もはや広瀬大志は、詩人というよりも、
「幻視者」と呼ぶにふさわしい作家ではないだろうか?
これまでの氏の作品を俯瞰してみると、人間の深奥に潜む原初の感情、すなわち「恐怖」と云う根源的な概念を、詩というジャンルに於いて形象化・言語化し、まるで城塞を構築するかのように、コツコツと言葉を積み上げてきた。
⁂
著者 広瀬大志
『ライフ・ダガス伝道』
(書肆妖気/二五〇〇円+税)
⁂
『喉笛城』から『ミステリーズ』、『髑髏譜』、『魔笛』等の系譜を辿ってみると、視覚と聴覚の混成を伴った死の影、若しくは「死の予感を孕む生への恐怖」を探究し続けて来たことは明白であろう。
その集大成とも云うべき本書を手にして、まず始めに驚かされたのは、その稀有なる装幀のスタイルである。
『ダガス伝道』と『ライフ』と云う、凡そ同一直線上に位置し得ない虚構と現実(的な虚構であるが)の物語群を、一冊に(しかも表裏一体型として)封印する形式。
まるで、旧約と新約を抱合せた、キリスト教の聖典そのものなのだ。
本書は正に創世記である。
しかし、そこに秘められた創造は、予言者と神との契約を記録した奇跡の書の写しではなく、かつてH・P・ラヴクラフト等が創り上げた、人類出現以前の原初の教義=クトゥルー神話の系譜を彷彿とさせるものなのだ。
いや、矛盾を覚悟で言及すれば、クトゥルー神話以降の、人類滅亡の時間を象った「ディストピア思想」と言った方がより的確かも知れない。
⁂
合成知能(超強)適正(ユ・チュ)は渡る者(ダ・マジュ)であり
おれとおまえの二つの知己で
汎用性と自主性の実存化を与えられる
(波吽の書(ダ・ンカウ・ル・ジュ)』より)
⁂
『ダガス伝道』は、第一部「ドルメン・カレルメン」、第二部「神曲」から構成される。
第一部は「おれ」の独言と「詩篇」が交互に繰り返され、予兆された時間への「恐怖」から、徐々にダガス(最後の音)への謎に迫っていく物語だ。
特筆するのは、言語の独創、或いは置換と云った神話系特有のマニエールを駆使している点である。
「カレルレン」を筆頭に、「ゴ・ザイラ」=乱樹師、「ノイチ」=呪術、「ダ・ンカウ・ル・ジュ」=波吽の書、「ユ・チュ」=契約・適正、「イエィツ」=指し駒……など、まるで擬古文を解読するように(言語遊戯的指向も交えて)、読者は迷宮の淵を彷徨することになるだろう。
そして「神曲」は、音楽的要素を孕んだ「詩篇」そのものだ。
終盤には、もはや謎を解く必然は消滅し、物語は、ただ感じるだけの詩世界へと変幻していく。
⁂
翻って『ライフ』は、現実社会で暮らす人々のライフ、平凡な日常を記録した十一の詩篇から構成される。
商業営業主任(31)、サービス業営業(28)、不動産業事務(26)、やくざの構成員(32)など、書き手のプロフィールを併記しているところが巧妙だ。
彼(彼女)等は、裏の世界で起きている滅亡のシナリオは知る由もない。
見えざる神の手になる破壊行為は、常に個々人の営みから乖離し、瞬時に日常生活を崩壊させ滅亡へと導くものだ。
この残酷な事実が、同じ時空の中で渦巻いていることを本書は暗示している。
この二冊の書物が一体化されることで、創世記は完成され、新たな神話体系が刻印されるという訳だ。
もはや広瀬大志は、詩人というよりも、
「幻視者」と呼ぶにふさわしい作家ではないだろうか?
これまでの氏の作品を俯瞰してみると、人間の深奥に潜む原初の感情、すなわち「恐怖」と云う根源的な概念を、詩というジャンルに於いて形象化・言語化し、まるで城塞を構築するかのように、コツコツと言葉を積み上げてきた。
⁂
著者 広瀬大志
『ライフ・ダガス伝道』
(書肆妖気/二五〇〇円+税)
⁂
『喉笛城』から『ミステリーズ』、『髑髏譜』、『魔笛』等の系譜を辿ってみると、視覚と聴覚の混成を伴った死の影、若しくは「死の予感を孕む生への恐怖」を探究し続けて来たことは明白であろう。
その集大成とも云うべき本書を手にして、まず始めに驚かされたのは、その稀有なる装幀のスタイルである。
『ダガス伝道』と『ライフ』と云う、凡そ同一直線上に位置し得ない虚構と現実(的な虚構であるが)の物語群を、一冊に(しかも表裏一体型として)封印する形式。
まるで、旧約と新約を抱合せた、キリスト教の聖典そのものなのだ。
本書は正に創世記である。
しかし、そこに秘められた創造は、予言者と神との契約を記録した奇跡の書の写しではなく、かつてH・P・ラヴクラフト等が創り上げた、人類出現以前の原初の教義=クトゥルー神話の系譜を彷彿とさせるものなのだ。
いや、矛盾を覚悟で言及すれば、クトゥルー神話以降の、人類滅亡の時間を象った「ディストピア思想」と言った方がより的確かも知れない。
⁂
合成知能(超強)適正(ユ・チュ)は渡る者(ダ・マジュ)であり
おれとおまえの二つの知己で
汎用性と自主性の実存化を与えられる
(波吽の書(ダ・ンカウ・ル・ジュ)』より)
⁂
『ダガス伝道』は、第一部「ドルメン・カレルメン」、第二部「神曲」から構成される。
第一部は「おれ」の独言と「詩篇」が交互に繰り返され、予兆された時間への「恐怖」から、徐々にダガス(最後の音)への謎に迫っていく物語だ。
特筆するのは、言語の独創、或いは置換と云った神話系特有のマニエールを駆使している点である。
「カレルレン」を筆頭に、「ゴ・ザイラ」=乱樹師、「ノイチ」=呪術、「ダ・ンカウ・ル・ジュ」=波吽の書、「ユ・チュ」=契約・適正、「イエィツ」=指し駒……など、まるで擬古文を解読するように(言語遊戯的指向も交えて)、読者は迷宮の淵を彷徨することになるだろう。
そして「神曲」は、音楽的要素を孕んだ「詩篇」そのものだ。
終盤には、もはや謎を解く必然は消滅し、物語は、ただ感じるだけの詩世界へと変幻していく。
⁂
翻って『ライフ』は、現実社会で暮らす人々のライフ、平凡な日常を記録した十一の詩篇から構成される。
商業営業主任(31)、サービス業営業(28)、不動産業事務(26)、やくざの構成員(32)など、書き手のプロフィールを併記しているところが巧妙だ。
彼(彼女)等は、裏の世界で起きている滅亡のシナリオは知る由もない。
見えざる神の手になる破壊行為は、常に個々人の営みから乖離し、瞬時に日常生活を崩壊させ滅亡へと導くものだ。
この残酷な事実が、同じ時空の中で渦巻いていることを本書は暗示している。
この二冊の書物が一体化されることで、創世記は完成され、新たな神話体系が刻印されるという訳だ。
2021-10-09 09:38
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0